江戸時代にタイムトリップ
観光客の皆さんに世界遺産・国宝 姫路城の魅力をもっと知ってもらいたい!そんな思いから姫路市が文化庁の進める「Living History(生きた歴史体感プログラム)促進事業」に手を挙げたのは昨年のこと。姫路城の大名の暮らしを江戸時代にさかのぼって体感するプログラムは、今年に入って本格的に動き出しました。
大名行列はその中心となるコンテンツ。姫路藩酒井家7代藩主の酒井忠顕(ただてる)が京都に向かう様子を描いた「顕徳院様将軍御名代上京行列図」など、当時の絵図を再現し、11月の第71回姫路お城まつりでお披露目します。
姫路城の入城者数は平成27年度のグランドオープン時に過去最高の286万7千人を記録。以降も国内外から多くの観光客が訪れ、外国人が占める割合は年々増加しています。姫路市観光推進課の安室暁さんは「体験・体感プログラムを充実させることで、国内外問わず、お城に来てくれる人の満足度をより高めたい。姫路の文化財や歴史への関心を深めてもらうきっかけにもなれば」と話します。
とはいえ、史料がほとんど残っていない大名行列の再現は簡単ではありませんでした。時代考証を担当した姫路市立城郭研究室の工藤茂博さんは、「大変でしたが、今回の調査で明らかになったことがたくさんあります。見ごたえのある大名行列を楽しんでもらえるはずです」と自信を見せます。
本物そっくりの火縄銃にドキドキ。鉄砲隊の持ち物です
家臣用のはかま。
絵図を基に素材や色、
模様を再現しています
お城を背景にわくわく体験
絵図を基に細やかに検証した衣装や道具、調度品は昨年度のうちにすべて完成。登場人物ごとに大切に保管され、本番の日を静かに待っています。「絵図から何をどのように再現するか。一つ一つ検討し、素材や質感、色合いまで忠実な再現を目指しました」と工藤さん。家臣が身にまとう羽織の家紋が分からない場合は、代々の墓所を訪ねて調べたという念の入れようです。
復活を後押しする強力な助っ人も現れました。長野県飯田市で大名行列を伝承する「本町三丁目大名行列保存会」の皆さんです。同会が姫路藩ゆかりの調度品を持っていたのをきっかけに、150年続く飯田の大名行列の掛け声や所作を伝授してもらえることになったのです。歩きながらのポーズや道具の受け渡しなど、行列の最中に行われる所作や独特の掛け声は、当時の様子を想像させる大きな見どころ。同会の皆さんの指導を受け、絵図に描かれた行列に少しずつ息が吹き込まれていきます。
まつり当日はお城を背景に約100人が練り歩く予定です。よみがえる大名行列。見て楽しく、参加して楽しい、姫路城の新しい魅力にぜひ出会ってください。
聞けば聞くほど奥が深い。装束の一つ一つに意味があります
豪華さが際立つ
お殿様の着物一式。
酒井家の家紋が
しるされています
(中央)広報推進員 一井 ゆか (右)姫路市観光推進課 安室 暁さん
(左)姫路市立城郭研究室 工藤 茂博さん
iida no daimyogyoretsu
飯田の大名行列
長野県飯田市の大宮諏訪神社の祭礼として、7年に一度、申寅年の3月に開催される式年大祭の出し物の一つ。明治5年に始まった伝統行事で、仙台藩などから入手した道具を使って江戸時代の参勤交代の様子を再現しています。
himeji oshiro matsuri
姫路お城まつり
戦後復興を目指して昭和23年に始まった祭りで、今年で71回目。時代パレード、総踊りなどを2日間にわたって繰り広げます。例年は5月に開かれますが、今年は11月に開催します。
日時/ 11月7日(土)・8日(日)
問い合わせ/姫路お城まつり奉賛会事務局(姫路市観光推進課内)
電話/ 079-221-1520
※新型コロナウイルスの影響により、中止になる場合があります
歴史を感じる遊び方いろいろ
せっかく姫路城に来たなら、ただ見学するだけではもったいない! お城のロケーションを生かした、タイムトリップ気分を味わえる体験プランがいろいろ用意されています。SNS映えすること間違いなし。ぜひ、チャレンジしてください。
船大工が昔のままの工法や道具で再現した木造和船は雰囲気たっぷり。まるで城主が船遊びを楽しんだように、姫路城の内堀を和船で散策できるプランです。
重量感のある甲冑具足を身に付けて、姫路城内や大手前周辺を散策できるプラン。姫路城を背景に写真を撮れば、戦国時代の武将気分を味わえます。
※いずれも新型コロナウイルスの影響により、中止になる場合があります
連なる行列をリアルにする道具や調度品。
いわれを知ってよ~く見ると、見物の楽しみがますます膨らみます。
こだわりの小道具がずらり
江戸時代の大名行列は、戦に臨むための行列から一転、大名家の格式や権威を誇示するものへと変わりました。数百人が続く列を見せつけるために、途中で人を雇うこともあったそうです。
姫路藩では総勢290人にのぼったといわれる大名行列。鑓(やり)隊に弓隊、鉄砲隊などグループそれぞれにミッションがあり、足軽や家臣、中間(ちゅうげん)と身分や役割もさまざま。衣装や持ち物がそれを示しています。「例えばお殿様のかごを担ぐ人は、体格の良いイケメンと決まっていました。見栄えが大切なポジションなんです」と工藤さん。大名行列そのものも見た目重視とあって、多くの道具類はデザイン性に富み、朱塗りや金箔(ぱく)といった華やかな細工も施されています。
そこにはどんな意味があり、どんな思いが込められていたのでしょうか。今回再現した道具の中から特徴的なものを紹介します。
「軽くて機能的。
侍も中間たちもかぶった笠です」
一の文字のように平らな編み笠。直射日光を防ぐためのもので、植物のスゲで編まれています。身分の高い人は漆塗りの笠をかぶりました。
「鑓だって派手に
飾っていました」
鑓先の装飾にはバリエーションが。こちらは黒い鳥の毛で飾った鑓です。
「細かい造作が美しい。
職人技が生きています」
艶やかな漆塗りと鮮やかな朱色が特徴。美術品のようにきれいな弓と矢をセットにして担ぐ道具で、実戦は想定されていませんでした。
「絵図にあった
文様と家紋を
再現しました」
ぱっと目を引く朱塗りの筒は、刀を納めるためだけに作られた道具。お殿様の大切な刀を足軽が担いで運びました。
「ひと際目立つ
色と形。
実は弓矢入れです」
弓の矢を納める用具。堂々たる酒井家の家紋と全体に金箔を巡らせたきらびやかな外見で、藩の格を知らしめました。
「特別なものがここに!
とアピールしました」
遠目にも目立つ朱塗りの格子。将軍の書状など、特に重要なものを運ぶため、またそれをアピールするために用意されていました。中にはいったいどれほど大事なものが‥。想像をかき立てる小道具です。
「三日月の覆いは
姫路藩の象徴です」
武家のシンボルである長刀や鑓は、大名行列のときに刃先を見せず、専用の覆いで隠していました。姫路藩の長刀の覆いは三日月の形。皮でできた覆いを見れば、どこの藩か分かるようになっていました。
「ヤクの毛の
装飾もあります」
存在感抜群の白いフサフサはヤクの毛だったといわれます。鑓の先の装飾として付けられ高くかざして歩きます。
広報推進員 一井 ゆか
城郭研究室の工藤さんにお話を伺いながら、実際に大名行列で使用された衣装を再現した着物などを羽織らせていただきました。お殿様が羽織っていた着物だけに、ずっしりと重さを感じました。他にも鑓や鉄砲なども見せていただき、間近で見ると、その迫力に圧倒されました。私も大名行列の復活が楽しみです。